猫との出会い①。

2017年3月13日、16年の9月14日に実家の裏庭で保護した猫の去勢手術が終わった。

 

 見つけたときは、まだ赤ちゃん特有のポワポワした感じの毛で覆われ、顔はちっとも私好みではなかった。友人の子供が悲しいときに出る顔に似ていて、私はそれがとても嫌いで、この猫を見たとき「将来的に私はこの猫を愛せるだろうか」という心配の方が勝っていた。

 それでもこの子猫を見殺しにすることはできないと、手のひらに乗せて保護を試みたが、触らせるくせに運ばれるのはいやだったようで、ひょいと私の手からジャンプをしてすみの方に逃げてしまった。そこはもう屈んで手を差し込んでも届かない複雑な物置脇に。

 基本、私は「ご縁」を意識して動く人間なので、子猫が去ってしまったときも縁がなかったんだとその場で諦め、立ち去った。なんとなく、あの子猫、間接的に私が殺すことになるんだろうな〜と思いながら。その夜は、夫も合流して私の両親と一緒に焼肉を食べに行った。焼肉をひっくり返しながら、あの猫はどうなるんだろう、わたしのせいになるのかと、猫のことばかりを考えていた。でも、逃げてしまったものはしょうがないという気持ちで無理矢理猫への気持ちに蓋をしていた。

 しかし、帰宅して寝るときもまた猫のことが頭から離れない。でもしょうがない、逃げたのはあの子と自分を納得させながら。

 

 翌朝、特に仕事もなく筋トレをしていたら、母親から電話。iPhoneが壊れてしまってどうしても直らないから見に来て欲しいと半泣きだった。ほんとうもう、実家は電話事情に呪われているとしか思えないほど、流れが悪い。しかも私の筋トレ時間を邪魔してまで……!という怒りも湧いたが、次に起きた気持ちは、「猫を保護できるのでは?」だった。慌てて母にすぐ行くから猫はどうしたと聞くと、まだ私が手に乗せた場所にいるという。すぐさま保護するよう指示するも「お母さん、そんなのこわくてできない」と半泣きの反応。これにはイラッとしたが、父親に頼んで保護してもらえ!と指示し、大急ぎで出かける準備をする。その前に猫の保護準備だ。そしてそれよりも前に夫へ、猫の飼育許可だ。もう許可なんて言っていられない。猫を保護して飼うのだ。だから私は夫に

「昨日見かけた猫を保護します。飼わせてください。お願いします」

 普段私は夫に対して敬語なんて使わない。ただこのときは保護したさ一心だった。

 これだけを送信し、返信は待たずに家を出た。行き先は地元の薄汚いペットフード店。ペットグッズを扱っている店がここしか思い当たらなかった。こんな町なのが、また情けない。キャリーバッグとエサを求めに向かったが、なんということでしょう。まだ開店していない。こういう事態になると余裕がなくなる私は、心底この町と自分を呪いたくなる。自転車すら持っていないことにも腹が立ってくる。ここから駅まで歩いて15分ほどだが、タクシーを拾う距離でもない。

 駅と反対方向の店に行くもまだ開店しておらず、あきらめて駅に向かうという時間のロスが重なり、その間に子猫はどうなってしまうんだろう、そればかりが頭の中を回っていた。ここで時間を潰していたらもったいない。まずは少しでも実家に近寄った方が得策ではないかと考え、実家最寄りの駅そばにあるホームセンターの開店時間を調べるとすでに営業中。やった、ひとまず神さまは実家近くにいそうだ。そこから電話をかけて、ペットグッズの有無を確認すると、いい返事がもらえた。大丈夫、保護できる。根拠のない強い確信が私を奮い立たせる。武者震いをしながら、いざ電車に飛び乗る。

 さすがに車内で猫のことを考えていてもどうしようもできない。こんなに神経が昂ぶっているのに読書なんてできるわけがない。できることは……、占いを見てみることだ!と思い立ち、iPhoneの占いアプリを立ち上げて見てもらう。結果は「うまくいく」だった。よし、本当に運も神さまも私を応援してくれている。全身に力が漲る感じがあり、私は一人大きく深呼吸をしていた。

 

 駅についてグーグルマップでホームセンターの場所を改めて確認する。これが私の記憶違いで、予想以上に遠いし、実家とは逆方向。駅からタクシーに乗るほどの距離でもないが、ただ実家からは遠ざかる。まぁ、いい。とにかく道具を購入しようと自分を立て直し、店に向かい、揃えることができた。

 会計を済ませ、さぁどうするか。駅に戻ってタクシーに乗るか、それとも駅を通過して歩いて向かうか。駅に向かうロスを考えると、そのまま実家に徒歩で向かった方が早いと踏んで、歩を運び始める。ポケモンGOがあってよかった。この無駄だと思われる距離も、バディポケモンや卵の孵化で稼げるじゃないか。なんという前向きな気持ち。

 20分ほど歩いて実家に到着し、仕事中の父親に向かって「飼うから!」と、何も聞かれてもいないのに力強く宣言する。このときの私は、もう誰にも文句は言わせないと強張った表情で決意表明をしていたと、今になって父に笑われる。それぐらい、私はいろいろなものを突っぱねて猫を飼おうと覚悟していたのだ。

 キャリーバッグを携え、昨日逃げてしまった場所へ行くと猫はいない。父親が物置の中に保護したのだそう。しかしながら、物置の中で保護したから安全とはいえない。実は40年近く前、この物置で子猫を段ボールに入れて保護したのだが、ねずみにやられて腹が割かれていたのだ。あのときの衝撃は忘れない。今も申し訳なく思っている。だから物置の奥の方に入っていないことを願って引き戸を開けて中を見渡すと、いない。しかし視線を足元にやると、

いた!!!!!!!!!!!!!!

小さく踞りながら昨日の子猫がいた。慌てていたので乱暴気味に買ってきたキャリーバッグを開けて子猫を入れる。ここで本当に安堵した。保護に手間取るかと心配していたけれど、難なくあっさりとすませることができた。ああよかった。走りながら実家に戻り、子猫用ウエットフードの封を切り、バッグに突っ込む。猫はおもむろに容器に近づきながらモソモソと食べ始めた。食べる気があるなら元気だろ。その後、水も準備して子猫に与える。それにしてもガリガリだ。ノミがたくさんいるんだろうなぁと、改めて見ると触ることすら躊躇わせる汚さだった。

そして、食べ終わったのを見計らって、私はこの子猫を病院へ連れていく準備に取りかかった。